お茶事の稽古がありました。
おそば屋さんの店を借りての場所でしたから、椅子席で、そしてこの時
期「夜咄(よばなし)」の設定でした。
短檠(たんけい)手燭(てしょく)ろうそく、照明を落としての雰囲気は
幽玄の世界をかもし出してに、いやがうえにも茶の世界でした。
甘酒をいただいて、前茶、二、三人でお薄をいただきました。
別席にて懐石。
汁は白味噌仕立て、豆腐とご飯を合わせた物をうずみ豆腐と言うそうです。
忙しい時期に主客共に時間短縮をはかるためだそうです。
私は始めての経験で戸惑いましたが、おいしく頂戴いたしました。
向付けは、柿なますのおろし合え、水前寺のりの黒色が彩りをひきたてて
いました。
煮物椀はこの店のそば汁、おぼろ昆布入りに七味が入って、体が暖まる感
じがしました。ろうそくの火にそばで、この時私は忠臣蔵みたいと声に出
しました。後でわかったのですが、これが今日のテーマだったのです。
預け鉢は棒だらと大根、どちらもとても柔らかくその上に柚のせん切りが
たっぷり、香りが食欲をぐんと増しました。亭主の心配りがよーくわかり
ました。
八寸は干し鮭の酒浸しと炒りぎんなんには赤穂の塩が用いられたとのこと
でした。
お菓子は手作りで、材料は丹波のげんこつみたいな真っ黒のつくね芋、薄
茶色は讃岐の和三盆の色、 真っ白のところは上白糖を控えめに使い、茶巾
絞りで上品に仕上っておりました。
銘は雪山でしたが、やはり、討ち入りの日の雪をイメージしてとの作者の
言葉でした。
お菓子をいただいた後、別席に移って、私達はイス席で、お点前さんは、
点前座の設えの関係で逆勝手の点前でした。普段の点前と違って、濃茶も
続いてお薄もされ、たいへんやりにくかったでしょうが、きれいになさい
まして、こちらの客側は、ろうそくの光であやめかしい雰囲気のお茶の別
世界にとっぷりとひたりきっていました。
その時の説明で、
軸の代わりに色紙は南天の絵に「わざと掃かで あるをはかれし 落ち葉
かな」芦田秋双作 正岡子規の弟子で、四十七士の一人である大高源五が
俳人でもあったことにちなんで。
そばに入っていた七味は、四十七士の一人原惣右衛門の子孫の店のもの。
茶杓の銘は「いろは」亭主自身がいつも初心者である心を忘れぬための戒
めと、いろはの四十七文字と四十七士をかけてと、いろいろと心憎い思い
付きではありませんか。
香合はいのしし、忠臣蔵歌舞伎の五段目に、萱野三平がいのしし狩りの姿
で登場するに因んでおり、最後に薄茶の干菓子は松江の銘菓、やまかわで
した。皆さんもご存知の討ち入りの時の合言葉です。
このように種明かしされた時の面白さ、途中のテーマの何かをたぐる楽し
さ、お茶を楽しむのは勿論、こんなユニークな発想に楽しい一時があっと
いう間に過ぎました。
これこそがお茶の真髄ではないでしょうか。全部揃った茶室がないとでき
ないとか、立派な道具ないとできないのではなく、ある物でできる限りの
頭を働かせて、臨機応変に楽しくみんなでお茶をいただこうではないかが
一番だと思いますが、皆様はどのようにお感じになりましたか?
夜咄(よばなし)の茶事について
夜咄の茶事(よばなしのちゃじ)
夕食を伴い、主として冬季の茶事で午後五時から六時までに案内して、約三
時間の間に前茶、初炭、懐石、中立ちをして濃茶、後炭を略して続き薄茶の
点前をするのが約束になっています。
この茶事は、客を暖かくもてなすのを第一とし、昔ながらの短檠(たんけい)
手燭(てしょく)を使って暗やみと灯の明暗の世界を演出する茶事で、風情
、趣があり、それだけにむずかしく昔から「茶事は夜咄であがり候」といわ
れたほどです。
短檠(たんけい)
灯具の一種。利休好みは、総体黒塗りで、高さ四寸、裾幅七寸三分でやや上
方が狭まる台箱の背面に、高さ一尺一寸の板柱を立て、上から一寸八分下が
った所に丸穴を開け、さらに下がって火皿の金輪を取り付けたもので、その
金輪上に楽焼の雀土器を置き、長灯芯を柱の上の穴から後ろに垂らして一つ
結ぶ。席の大小、月夜・闇夜の別などにより灯芯の数を加減する。四畳半の
席では貴人畳の勝手付に置き、初入りには雀土器の蓋をし、後入りには蓋を
とって下皿の上に掻立て用の黒文字の上にのせておく。二畳台目以上の席で
用いる。
手燭(てしょく)
灯具の一種。蝋燭立てに長柄を付けたもの。夜咄・暁の茶事などで、迎え付
の際に主客交換して挨拶に代え、露地・蹲踞では足下や身近の照明とし、亭
主は点前中手もとを照らし、客は床や諸道具の拝見などに用いる。使用する
蝋燭は数寄屋蝋燭といわれる蝋涙の垂れないものを使う。
食事時は膳燭を使い、食事中に、膳燭の蝋燭の燃えたあとの芯が長くなると
、客は芯切りを取ってそれを切り、下の入れ物に入れ、芯切りを懐紙などで
清めもとに戻しておきます。
前茶
これは客付きでの湯に替わる物で、菓子は出さず、玉子酒、甘酒を茶受けと
して薄茶を差し上げるもので、水屋道具でします。
この時は水指も省略して、棗、茶碗で一礼して入り、建水を運んだ後茶を点
てますが、この時の薄茶は大服に点て、おもあい(2、3人で)いただくの
が約束です。拝見も勿論ありません。
<裂地 きれじ>
有楽緞子 うらくどんす 名物裂の一種。名称は織田有楽の所持に因む。
一名常真裂(常真は信長の次男信雄)ともいう。
縹色経五枚繻子地に、白で網目雲と飛鳥紋を織出
している。中国明代の製という。大名物「珠光文
琳茶入」の仕覆裂に、用いられている。
雲山金襴 うんざんきんらん
名物裂の一種。紫地に七曜星に龍紋の金襴で、中
国明代の製。大名物雲山肩衝・同残月肩衝。中興
名物米市茶入の仕覆裂に用いられている。
黄緞 おうどん 名物裂の一種。黄鈍・大緞とも書く。経糸に絹、
緯糸に太い木綿糸を使った経三枚綾地の金・銀襴
の総称。製作地・年代。渡来とも明確でないが、
朝鮮産で桃山時代以後舶載したものではないかと
思われる。
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